社長 それをやっちゃいかんでしょ!その九
節税対策の最たるものは自社ビルの保有で、それも多額の借金をした方が支払い利息を経費で落とせるので節税効果は高い。そこで、数億、数十億といった多額の借金をして自社ビルを建てる。でっかい鉄筋コンクリート造の自社ビルは、自分が創業してきてこれまでの苦労が実ったと思わせるには充分の迫力がある。従業員も家族も大喜びで、もちろん最上階の南向きの角部屋は社長室。
年間、1億円の税前利益が出ていると、返済能力を年間6000万円として、20年ローンで9億円程度の借り入れができる。この資金で自社ビルを建てると、そこそこ見栄えも良い自社ビルが購入できる。昭和の時代、業績が右肩上がりの時には、積極的に投資した方が儲かったが、業績が不安定な時代には、自前の資金を保有している方が会社経営には有利。しかし、お金は持っていると使いたくなる。
会社というのは借金して売り上げを上げて、利益を出す方が見栄えが良い。経営効率も良いと数値判断では出てくる。しかし、実際は、資産が増えた分、借金も増えて、自己資本は減少しがちになり、経費が膨らんでしまった企業体質になり、まさかの事態に対処できない状態になる。税前利益が5000万円になると自社ビルの返済資金が捻出できなくなり、新たな融資をお願いすることになる。
自社ビルが建った頃は、企業業績も絶好調だが、「いつまでもあると思うな親と金」のごとく、質素倹約に努めていれば倒産しなかったのに、家族や社員が喜んでくれたと、いっときの喜びに現(うつつ)を抜かす。社会の変化についていけず、業績は急降下して、資金繰りに困る。自社ビルは売れず、返済も待ってくれない。泣く泣く倒産してすべてを失う社長さんもいる。
返済分の利息は経費でも、返済分の元金は儲けから返済するので、実際には儲かっているのに倒産する事態になる。家賃が高くても賃貸であれば、家賃は全額、経費で落とせるし、業績が下降すれば引っ越しすれば家賃は安く済む。企業活動の変化に応じて、本社の移転がしやすくなり、地方から都会へ、都会から海外へと移動しても全額経費扱い。賃貸やリースで済ます方が何かと便利ではある。
僕が知っているだけでも数名の社長さんが、自社ビルを建てて自慢していたが20年前後で会社を整理している。他人に渡った社屋を観て、自社ビルはリスクが高いと思わざるを得ない。節税効果のため、投資商品として、などといった話を信じて自社ビルの購入に踏み切るが、購入時の説明とは大違いの結果しか見ていないので、僕はお勧めできない。