低価格で勝負するのは危険
品質で勝負するビジネスは儲けも出しやすいが、低価格で勝負するビジネスは儲けが出にくく飽きられるリスクもある。僕が使っているミシンはJUKIで国内メーカー、世界最大のミシンメーカーでもある。工業用ミシンでは世界シェア30%、世界中で生産される洋服の30%はJUKIミシンで縫われている。
この会社、戦前は日本軍のための小銃を製造していた。戦後は、家庭用ミシンを製造するようになるが、技術がないためアメリカ製のシンガーミシンを分解してコピーして製造・販売していた。昭和22年には、オリジナルの性能には及ばないコピー商品ながらJUKIの1号機が完成する。
家庭用ミシンはモノがない時代、飛ぶように売れた。それから16年、東京オリンピックを翌年に向かえるようになると、自分で縫製した服を着る時代から、既製服を着る時代へと変化していた。100社以上もあった家庭用ミシンメーカーはほとんどが倒産していった。
生き残るには工業用ミシンの開発が必要だった。JUKIも工業用ミシンを販売していたが、欧米のコピー商品だった。オリジナルの技術はたった一つしかなかったが安かったので売れていた。その頃、転々と職を変えるひとりの技術者が入社してきて、「こんなものが売れるわけがない」と言い放った。
35歳の小塚は、世界に通用する技術で商品開発しなければ太刀打ちできないことを広島の原爆体験から悟った。17歳の時、海軍士官学校に入学、4か月後広島・長崎に原爆が投下され焦土となった広島を観て、技術力の差で勝敗が決まることに愕然とした。技術で欧米に負けてはならないと思った。
それ以後、彼は一心不乱に技術力を身につけようと勉学に励み、ひとつ企業で働いて技術を吸収すると転職を繰り返していた。彼は、世界の誰もが成し得ていない「自動糸切ミシン」の開発に乗り出す。世界一の性能は高額でも欲しいと思わせる生産効率という魅力がある。彼のミシンは世界中で売れ、世界のトップメーカーにのし上がった。