老いてからの街歩き
73歳になる僕は、和歌山県有田郡湯浅町本町3丁目で産まれ育った。今は、隣町の有田川町で暮らしているが会社は東京渋谷にある。東京はダイナミックな街で何かをやるには面白い街だ。しかし、年老いてくると故郷の街歩きが大好きになる。
駅に着けば、リフォームされる前の賑やかな駅を思い出す。待合室の売店で新聞と牛乳を買うサラリーマン。とても立派に見えた当時の学生。となりの飲食店は夜になると宴会で賑やか。駅前の食堂は安くて美味しい。地下の喫茶店は、チョッと大人の匂いがする。
坂を下れば映画館があり、演芸などもたまにやっていた。広川の橋を渡れば天洲の浜。遠浅で潮が引けば赤い灯台まで歩けるほど。夏にはお店がいっぱい。広川町にも映画館があり、紡績工場の女工さんたちが帰宅する頃、恋人らしき男性が多くいた。
濱口悟良が地元民といっしょになって作った堤防は、桜の季節には花見の人で賑わっていた。僕が住んでいる本町地区の親睦会でも利用して、子供だった僕はパン食い競争で他の子供たちを押しのけて走っていた。
昔の思い出がいっぱい詰まっている街を一人歩きしていると、幼い子供だった記憶が重なり、当時の自分に戻った気分になる。ふと我に返ると、すでに街は廃墟に近く、廃れた家屋や看板になっている。嗚呼、自分も年取ったものだと感じる。


