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息子は仏様のような奴や

僕の父親は74歳のとき癌で死んだ。幼い頃は父に毎日のように暴力を振るわれていたので憎んでいた。お酒好きで、母親にも暴力をふるっていたので憎しみはつのるばかりだった。毎日のように居酒屋やスナックで飲食して、酒臭い父親が帰ってくると反抗的だった僕は父をにらんでいた。

そんな僕の顔を見るなり「どんな顔をして父親を見るんだ!」と怒鳴られてげんこつを食らっていた。高校を卒業して大阪の大学に進学するとき、「おまえをこれまで育てるのに650万円掛かったから大人になったら返せ!」と言われてビックリしたが、父親も僕の態度に我慢ならなかったのだろう。

23歳の時、多額の借金を抱えていた僕は、父親にお金を工面してほしいと頼んだが、「おまえのような奴は腹でも切って死ね」と一喝された。借金があるうちは家に来るなと言われた僕は、サラリーマンを辞めて魚の行商をし、死に物狂いで働くしかなかった。同級生は僕の人生は終わったと噂していたらしい。

31歳ですべての借金を完済してアメリカを放浪しようと旅に出る前に父親に感謝の手紙を書いた。父親が突き放してくれたおかげでたくさんの事を知り、たくさんの人に支えられていることを知り、謙虚でいながら素直に努力する大切さを知りました。起業していろいろなビジネスを立ち上げて成功することもできました。

その後、父が癌になり治療費も出せないぐらいになっていたので、治療費などをすべて出し、大部屋から個室に変更し、死んでからは葬儀代も墓石も支払った。そんな父親が母に、死ぬ前に「あいつは仏様のような奴だな」と言っていたと教えてくれた。最後は、家族が仲良しになり、とても素敵な父になって死んでいった。

僕の父親は寂しがり屋で酒飲みで、臆病な小心者だったからこそ、家族に温かく扱われたいと思っていたのに、それを言葉や態度に出せずに苦しんでいたのだろう。母や僕から父に愛情深く接することで父は代わり、本来の父になっていった。子供の頃は、わからなかったが、人は幾つになっても人で、愛情がなければダメなことを知った。

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