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子育てにかかったお金を返せ!

 

僕は父とは仲が悪く、暴力を毎日のように受けていたので殺意すら持っていた。仕事をするようになれば、この家から出ていけると思っていた。不憫なのは母親で、彼女も毎日、僕以上に父から暴力を受けていた。少しでも生活費の足しにできればと就職しようと思っていた。

 

貧乏から抜け出すなら、起業して自分が社長になるのが一番だと祖父が教えてくれた。設計事務所や工務店を開くなら大学を出て来いと言われた僕は、大学に進学することにした。特別奨学生になり入寮も決まり、仕送りなしで大阪に出ることができるようになった。大学ではバイトをしながら生活していた。

 

そんな春先、父親が、「おまえをここまで育てるのに650万円掛ったから、就職したら返してくれ。」と言われた。父親はマジな顔をして僕に言ったので、これにはビックリした。20年ほど経ってから、母親が、「お父さんはおまえを実の子供だと思っていなかったからだ。」と教えてくれた。

 

小学低学年のとき、父親と口論になり、「俺はおまえの子じゃない!」と、僕が啖呵を切ったのを真に受けたらしい。母親もそれはいい迷惑だったと教えてくれた。口は禍の元とはよく言ったものだ。それ以来、感情的になって罵声を浴びせるのは良くないと反省した。父親を錯乱させた原因は僕にあると思った。

 

社会人となって社長になり、両親の面倒を看るようになり、74歳で父親は癌で亡くなった。最後は、僕や母に感謝して旅立っていった。その後、すぐに実家をリフォームして母親の好きな間取りにして父親の面影を薄くした。それでも、母親に会うとあの父がいればこそ、今の自分たちがいると笑顔で話している。

 

幼い子供から親として否定され、落ち込んだ父はどうしようもない孤独感に陥った事だろう。家に帰るのが嫌になり、居酒屋で飲んだくれになって家に帰れば、家族から責められ、それでも家にいることはかなり辛かっただろうと大人になってから思えるようになった。父親も必死になって生きていた。

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