親孝行と親の期待に応えるのは違う
僕は親の言うことを聞かない自分勝手な子供で、父親は暴力的だったので殺意さえ抱いていた。親戚からも「おまえは、硲家の面汚しだ!」と疎んじられていたので、世間体などいっこうに気にしなかった。自分の人生は自分自身で切り開いてやると幼少の頃から思っていた。
いろいろと親から指導されることが大嫌いで、言われたことをやれと威圧的な態度を取ることや、いつまでもしつこくこうした方が良いと言われることが大嫌いだった。30歳を過ぎて、いつまでも親に反抗的だと子供っぽいと思い、思い切って暴力的な父親に大好きですと手紙を書いた。
30歳を過ぎてから、生活にもゆとりができ、自分一人で興した会社の経営も順調にいくようになった。定年退職した父親は、何かと指導するが、聞いているふりができるようになった。癌になり、入院するようになると医療費が払えないからと母親から聞いたので、医療費は払うようにした。
厳格な父親は、癌になり、医療費を払っていることを知ると、僕を素晴らしい息子だと自慢するようになった。父が死ぬと、葬式代を支払って、墓を買って、落ち込んでいる母のために実家を大改造し、父親の思い出を失くした。両親は僕を自慢の息子だと感謝するようになった。僕も親孝行できたと嬉しかった。
両親の言うことに従順で素直な子供が、親の期待に応えられないと心を病んで部屋に閉じこもってしまったり、自殺を図ることもある。親の言うことをまともに聞いていれば、僕は今の僕にはなれなかった。むしろ、若い頃は、親の期待を裏切るほどの精神力と実行力を持っている方が、年老いた親に孝行できるようになる。