そして誰もいなくなった
とても優秀な部下がいて、どの店舗に派遣させても瞬く間に日本一の業績を出す。鋭い観察眼とアイデアで業績向上策を考えては全力でやっていた。部下をひっぱるやり方は体育会系でスパルタコーチそのもの。ただ、人一倍部下思いでもあったが、その厳しさゆえに誤解されることも多かった。
ある店舗に行ったとき、スタッフがお菓子やジュース缶をレジテーブルの上に置いていたので厳重に注意したらしい。スタッフたちは反省するどころか反抗して、全員翌日から出社拒否して、困った部下は僕に電話してきた。深夜、僕はその店舗に行って駐車場で朝を待った。
朝、部下が電車に乗ってやってきた。自分一人でこの店舗は運営するから任せてくださいと言った。僕は、どんなに正当な指導でも、部下にスタッフ全員辞めたいと思わせたやり方が間違っていることを話して、退職したスタッフ全員に謝りなさいと言った。部下は退職したスタッフを呼び謝ってくれた。
悔し涙を流している部下に、この会社で働く人に嫌な思いで人を辞めさせてはいけないと話した。部下の指導には細心の注意が必要で、厳しく指導してついてくる者もいれば、そうでない者もいる。多くの場合、人はおだてられたり褒められたりして成長するものだと教えてあげた。
僕の言うことを聞き入れて、一度は厳しくしかったスタッフにキチンと謝ってくれた部下には、他人に頭を下げられる人は実は偉いと褒めてあげた。その部下はその後、独立起業して日本一の業績を出す会社に育て上げた。