しけた店のしけた定食が僕にはあっている
お金持ちは、高級レストラン自慢をするが、僕は学生の頃から通っていた中華料理店が大好きだった。国道42号線沿いの片隅に小さく夫婦で営んでいた。いつも行けば、中華飯に餃子、野菜炒めに五目スープが定番で、BUNちゃん定食という名前までもらっていた。
たまに観光客がやってきて、注文してから料理が出されるまで長いので、しびれをきらして怒鳴っていたりする。こんな汚い店に来てやったのにという態度が地元の人にはバカにされたようで気に食わない。そんな客が帰った後で、みんなして「頑張ってください」と言った。
大人になり、行商を始めた頃もそのお店に通っていた。外観はみすぼらしく駐車場は2台も置けないほど。客椅子はボロボロで座布団は擦り切れている。しかし、キッチンは清潔でいつもピカピカだった。近くの市場で仕入れた食材を使って目の前で調理してくれた。
キャベツが高騰すると、今日はもやし炒めにしてくれと奥さんが言う。お子様の勉強を観てあげたりしていたが、ご主人が心臓を悪くして死亡すると、半年も過ぎた頃、奥様も死んでいった。オシドリ夫婦で、電話すると「お父ちゃんがいないと寂しくて」と話していた。
あれから30年以上が経ち、いろいろなお店で中華料理をいただくが、あの店のように美味しい中華料理には出会わない。どんなに有名なお店でもあれほどの美味しさはない。おそらく、生涯出会うことはないだろう。あの中華には、僕の青春が詰まっているから。
街の場末で、夫婦でひっそりとやっている中華料理店、お店ののれんはすでに色あせているのをみると、少しのぞいてみたくなる。ひょっとすると、あの店にもなじみの客がいて、いつも座る席が決まっていて、いつもの料理を注文する客がいるはずだ。