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庭がない家

 

終戦からしばらく、戸建てには庭が必ずあった。敷地面積の半分以上が庭で、ミカンや柿の木があり草花も植えられていた。僕の家は戦後の復興住宅で戸建ての平屋だったが、それでも建坪と同じぐらいの庭があり、柿の木と山芋とフキが植えられていた。

 

風呂もなく水洗トイレでもなく汲み取り式の便所でもちろんエアコンもない。それでも3畳ほどの玄関があり、6畳ほどの土間があった。すべての部屋には畳が敷かれ、板間はなかった。窓には必ずひさしがあり、雨の日でも窓を開けていることができた。

 

高度成長期になり、建売住宅が1000万円程度で購入できるようになり、間取りは変化する。敷地30坪以下2間間口の家では庭がなく、隣の家と1mも離れていないのでひさしはなくなった。畳や土壁は高価なので板間や壁紙に変わった。

 

土間は板間になり、やがて水洗便所になり、キッチンはシステムキッチンになった。窓は二重窓になり戸外の音が部屋に入らなくなり、エアコンを使用するようになり、隙間のない家になった。小さな家が密集するようになり街の趣(おもむき)はなくなった。

 

今では、オール電化の家が増え、システムキッチンには食洗器がビルトインされ、手をかざすだけで水が出るようになった。水洗便所は自動になり、浴室はシステムバスになり、床暖房迄ある。エアコンの代わりに部屋は床暖房になり快適だが趣はない。

 

ボロ屋でも広い庭がある家の方が僕は好きだ。部屋の窓から眺める自然の景色は風景画のように映る。家の窓を開けると隣の家の壁が見える家で暮らしたくない。庭にある木々や草花を眺め、飛来する小鳥を眺めながら空を見上げられる部屋で暮らしたい。

 

 

 

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