戦死するのは祖国のためと信じる若者ばかり
僕が子供の頃、太平洋戦争から帰還した元兵士の人たちが、「生き残って帰ってきた奴は悪い奴ばかりなんだ。死んでいった奴はみんないい奴ばかりだった。」と話しているのを聞いたことがある。勇敢で正義感が強く、お国のためや家族のためと思っている奴が死に、死にたくないと思っている奴が生き残ったのだと。
帰還兵は、自分が生き残ったことを後悔しているように思えた。彼らは、小隊の兵士仲間との連帯は強いが、上官への憎しみは強かった。突撃と言いながら前に行こうとしない上官や戦争犯罪を下級兵士に押し付けている上官、無謀な作戦を実行し続けた上官、ただ死ぬことだけを強制した上官への憎しみだった。
太平洋戦争はアジアで植民地化された人々を開放し、アジアでの共存共栄を図るという大義名分を信じて戦っていた。国民は、アジア各国は欧米の植民地政策によって苦しんでいるから開放しなければならないと信じていた。しかし、実態は欧米にとって代わって日本の植民地にするための戦いだった。
そうした現実は報道されず、疑いもせずに日本国民はアジアを開放して、各地で喜ばれていると信じていた。国民は勝利すると疑わず、敗退を転進と呼び、肉弾攻撃や玉砕を称えていた。戦争反対などと言おうものなら非国民として人々から非難され、憲兵にしょっ引かれた時代。今のロシアに似ている。