家では呑んだくれて暴力ばかりふるい、教育勅語を暗記しているオヤジが嫌いだった。反抗してはオヤジに怒鳴られたりゲンコツをふるわれたりしていた。高校を卒業した時に、「おまえに使った金は650万円ほどだから、稼ぐようになれば返してくれ」と真顔で言われた。

 

学生の頃は、とにかくオヤジが嫌いで家に帰るのが一番嫌いだった。就職して仕事をするようになり、1年で退職してからは自営業を始めた。とにかく稼ぎにこだわって必死になって仕事をしてきた。あるとき、オヤジに毎月いくら稼いでいるのかと聞いたら、自分の稼ぎよりはるかに良かった。

 

軽蔑していたオヤジが自分よりも良い稼ぎをしていることに驚きを隠せなかったが、オヤジは偉いんだなと思った。何しろ、稼ぎは仕事で決まる。社会経験も長く、その仕事に精通しているからだと、自分が働くようになって感じるようになった。そういえば、家でコツコツ勉強している姿を観たことがあった。

 

アルバイトで同じ職場にいたことがあるが、オヤジは職場の人たちに優しく仕事熱心で、業務に精通していた。家では見たことがないオヤジの姿に驚いた。職場の人から尊敬され、ノンキャリアでは最高位にまで出世したので、ノンキャリアの人からは尊敬されていた。

 

自分が稼いだお金を若い頃は自分だけのために使うことで精いっぱいだが、オヤジは家族のために使ってくれていた。そんなことを思うと、自然とオヤジが素敵なおっさんに観えた。若い頃には見えないものが、年を取ると見えるようになる。オヤジは頑張っていたんだなと仏壇の前で感謝するようになった。