恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
若い方や欧米の方は、すぐに好きという言葉を使うが、好きという言葉を安易に使わない日本人の大人の恋心の方がより深いという意味。人を好きになる恋心は感情的なものだが、長く付き合って恋心など話題にしないのに愛情を感じていて、尚且つ、そのことには一切触れないでひたすらに相手をいたわるやるせない気持ち。
この気持ちが一番わかりやすい映画は「フーテンの寅さん」で、毎回の映画では、マドンナ役の女優さんに寅さんが惚れているのに好きだと言えないで優しくいたわる。マドンナは、別の人を好きだと寅さんに相談され、優柔不断な彼氏を励まし、二人で幸せになりなと世話を焼く。それを見ている妹はやるせない。フラれた寅さんは、家族に知られているので旅に出る。
日本人の男らしい恋心は、宮崎駿作品の「紅の豚」でも表現されている。主人公ポルコ・ロッソは36歳の豚人間で賞金稼ぎ。ホテル・アドリアーノの幼馴染ジーナとお互いに好きあっているがそのことはお互いに触れない。ストレートに感情を言葉にする人にはヤキモキする関係だが、それがこの映画を大人が観ても楽しめる作品にしている。
若きアメリカの飛行艇乗りカーチスは、空賊連合の用心棒に雇われジーナに一目ぼれする。愛を告白する彼に向かって、ジーナは「ここでは、大人の恋はチョッと複雑なの」と返答して、空を旋回しているポルコを見上げる。愛されているポルコに嫉妬しながら、求愛しないジーナが歯がゆい。それが大人の恋だと、宮崎駿は主張している。