蜘蛛の糸
ある飲食店のFCに就職した若者は、一生懸命になって働き、会社から認められるほどの実力者にのし上がっていった。毎日、出社して一緒に働く仲間といるのが楽しく、お客様に接して頑張るほどに売り上げは上がっていくのが楽しかった。毎日、いちばんに出社して、いちばん遅くまで働いても疲れはなかった。
こうして、FC店を好業績の店舗にした実績を買われて、本社SV(スーパーバイザー)になった。今度は、全国のFC店を巡回して、自分が経験した実績を活かして経営指導していった。多くの方に指導する立場になり、全国のFCオーナー様からも信頼されるようになった。
自分なら、経営指導しているFCオーナー様よりももっとうまく商売できると思うようになり、起業してFCオーナーになることを決意する。自分が一国一城の主になり、従業員を抱えて働くようになる。毎日のように従業員に激励して、自分は本社SVのように後ろで経理などのこまごました仕事を自宅で行う。
しかし、自分の店舗の売上は買い取ったころよりも悪くなっていく。従業員は社長が出社しないことで腐っていき、ヤル気を失くしていく。ヤル気がないので、社長は店舗に来ると厳しい口調で叱るようになるが、自分は社長だからと、いっしょに仕事をすることはない。益々、従業員は反抗的になっていく。
とうとう、資金繰りに窮した赤字店舗は、スタッフを解雇して自分が店舗に入らなければならない状態になってしまう。パート社員と一緒になって働くようになると、自店舗のダメなところがいっぱい見えてくるが、店舗に来たり、来なかったりの頃は全く見えていないことに気が付く。
起業した時から店舗に入って、従業員と一緒に働き、彼らの先頭に立っていれば、こんなことにはならなかったと反省するのが遅く、店舗業務を忘れているので、お客様からのクレームが発生して、パート社員も社長に付き合いきれなくなり辞めていく。現金も底をつき、とうとう倒産し振出しに戻った。