怒りは自分を破壊する
僕の父親はお酒とお肉が大好きで、とても怒りっぽい人だった。チョッとしたことでも気に入らなければすぐにカッとなって怒鳴ったり、暴力を振るったりして僕と母は生傷が絶えなかった。そうした態度は周りの人も観ているので、尊敬されることはなく軽蔑されるので、余計に感情的になっていった。
自分の考えを押し通して、他人に耳を貸さない態度は嫌われる。チョッとしたことで口論となり、ご近所からも職場の人たちからも嫌われる。お酒とパチンコが好きで、いつも飲み歩いていた。友達も、カッとなりやすい人ばかりでたちが悪い。稼いだお金は自分のために使い果たしていく。
70歳を前にして父親がお酒の飲み過ぎで喉頭癌になり入院した時には、家の蓄えはすべて使い果たして手術代すら出せない状態だった。入院費や手術代などはすべて僕が出して、父親に治療を受けさせることができた。癌と分かって、父は狼狽して母親に八つ当たりするようになった。
いつも八つ当たりされて生傷が絶えない母は、作り笑いで我慢して、愚痴も言わず献身的に暴力的な父の指示に従っていた。そんな態度を見ている周りの方からは、自然に尊敬され慕われるようになった。すぐそばに感情的な人がいて恫喝されていても平常心を保ち、堂々と振る舞える精神力は日々の修行のたまものだと思う。
勉強熱心で、郵政大学に進学してノンキャリアでもそこそこの役職に上り詰めたが、信頼されるに至らず孤独な人生だった。如何に勉強できて仕事熱心で向上心があっても、カッとなりやすい性格が影響して伸び悩む。最後はたった一人で死んでいったが悲しむ者はいなかった。
僕も母も父のことを憎んではいない。むしろ、今の幸せな人生を創れたのは父のおかげだと感謝している。数十年、苦しめられたが、その苦しみがあるからこそ多くの人の痛みもわかるし、平常心でいることの大切さも知った。最後は、優しく、感謝の言葉をもらしていた父だった。